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名古屋地方裁判所 昭和43年(ワ)3326号 判決 1970年2月27日

原告

竹内敏子

被告

川端木材有限会社

主文

一、被告は原告に対し三五万六、六五二円及びこれに対する昭和四三年一一月一日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを五分し、その四を原告の、その余を被告の各負担とする。

四、この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、申立

一、原告

「被告は原告に対し一八七万一、四九〇円及びこれに対する昭和四三年一一月一日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

二、被告

「原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決を求める。

第二、請求原因

一、原告は次の交通事故により傷害を受けた。

(一)  日時 昭和四一年九月六日午後二時一〇分頃

(二)  場所 名古屋市南区南陽通り二丁目四三番地先路上

(三)  加害車 訴外荒谷吉明(以下荒谷という。)運転の三輪自動車

(四)  態様 原告は本件事故現場を南北に走る道路を東側歩道より西側に歩いて横断しようとして、本件事故現場付近の南北の信号が停止信号であつたため南進してきた自動車が数両停車していたので、そのうちの一台の自動車の前面を通過し、市電軌道付近まで歩行してきたところ、南進してきた加害車が原告に衝突し、原告を路上に跳ね飛ばした。

(五)  受傷の内容 頭部外傷、脳震盪、右九、一〇、一一肋骨亀裂骨折、全身打撲挫創

右の傷害のため昭和四一年九月七日から同年一一月三日まで入院治療を受け、翌四日から現在まで治療を続けている。

二、被告は従業員である荒谷に業務のため加害車の運転に従事させて加害車を自己のために運行の用に供していた。

三、本件事故により原告の受けた損害は次のとおりである。

(一)  療養費 一五万一、五四〇円

(1) 治療費 九万三、九三〇円

昭和四三年四月一日から同年一〇月二四日までの分

(2) 看護代 五万三、〇八〇円

(3) 交通費 四、五三〇円

(二)  休業による損害 七一万九、九五〇円

原告は夫及び子供と共に三人の使用人を雇用して衛生白衣製造販売業を営むものであるが、本件事故により昭和四三年一二月まで右営業に従事することができなくなつた。原告の右営業より受けていた利益は卸売、小売業の女子労働者の月額平均賃金である二万五、六〇〇円(第一八回日本統計年鑑昭和四二年総理府統計局編)を下らないので、右の利益を一日当りに換算すると八五三円三三三・・・・となるが、これを八五〇円として前記の期間八四七日間の休業による損害を算出すると前記金額となる。

(三)  慰藉料 一〇〇万円

原告が本件事故により二年余に及ぶ長期療養、休業を余儀なくされ、多大の肉体的、精神的苦痛を被つた事実等を考慮すると右金額が相当である。

四、よつて、原告は被告に対し損害額合計一八七万一、四九〇円及びこれに対する本件損害賠償請求権発生の後である昭和四三年一一月一日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払を求めるものである。

第三、請求原因事実に対する答弁

一、第一項の事実中、(一)ないし(四)の事実は認め、(五)の事実は争う。なお原告は昭和四一年九月一二日頃中京病院において治癒と診断されている。

二、第二項の事実は認める。

三、第三項の事実は全て争う。

第四、抗弁

一、本件事故においては次の各事由が存するから被告は賠償の責任を免れるものである。すなわち、

(一)  荒谷は加害車の運転につき過失はなく、被告もその運行に関し注意を怠らなかつた。

(二)  本件事故は、原告の近くに横断歩道があるにもかかわらず横断歩道を横断せず停車中の車両の間から突如加害車の前面に飛び出した過失により起つたものである。

(三)  加害車に構造上の欠陥又は機能上の障害がなかつた。

二、仮に、右の免責の抗弁が認められないとしても、原告にも前記のような過失があるから、損害賠償額算定にあたつてそれを斟酌すべきである。

第五、抗弁事実に対する答弁

全て争う。

第六、立証〔略〕

理由

一、事故の発生と原告の受傷

請求原因第一項(一)ないし(四)の事実は当事者間に争いない。そして、〔証拠略〕を総合すると、原告は本件事故によつて原告主張のような傷害をうけ、中京病院、宇野病院に六〇日入院し、七六日通院して治療を続けたが、右胸部、左腰部の疼痛は容易に軽快せず、原告が後記仕事に復帰できるようになつたのは昭和四四年一月になつてからであり、本件事故から二年余経過した現在においても通院加療を受けていることが認められる。

二、荒谷の過失と原告の過失

本件事故の態様の概略は当事者間に争いないところ、〔証拠略〕を総合すると本件事故の状況の子細は次のように認められる。

本件事故現場より数十メートル南方の南区南陽通り二丁目交差点の南北の信号が赤であつたため、南行する自動車が本件事故現場に至るまで多数連らなつて停車しているところへ、荒谷は加害車を運転して北より差しかかり、右交差点の手前の三差路を右折するため本件事故現場の約二〇メートル手前より市電軌道敷内に進入し時速約二〇キロメートルで本件事故現場まで南進したところ、停車中の自動車の間から進路左から右に小走り横断して来る原告を左前方約三・六メートルのところに発見して急制動措置をとつたが間に合わず加害車の左前部を原告の頭部腰部等に衝突させ本件事故となつた。一方原告は、本件事故現場の道路を西側に横断しようとして東側歩道に立つて自動車の流れが切れるのを待つていたところ、信号待ちのため連なつて停車中の南行車のうちの一台の運転者が原告にその前面を通過するよう合図したため、小走りに横断を開始し軌道敷に差しかかる際左方の前記南陽通二丁目交差点の信号を見たところ南北の信号が赤であつたのでそのまま進んだが、折から右より走行してきた加害車に衝突し本件事故に遭遇した。

そして、本件事故現場付近は見通しは良いが、交通ひんぱんであり、数十メートル南方の前記南陽通り二丁目交差点には横断歩道があることが認められる。(〔証拠略〕中右認定に反する部分は信用しない。)

右認定の事実に照らすと、荒谷には、右のような状況下において停車している自動車の間から歩行者が横断してくるような事態を予測して進路左前方を注視し、減速、徐行すべき注意義務あるのにこれを怠り漫然運転を継続した過失を、原告には被告主張のような過失を認めることができ、双方の過失の態様・程度を考えると、本件事故発生につき荒谷に三、原告に七の原因力が存するというべきである。

三、被告の責任

請求原因第二項の事実は争いないところ、荒谷に過失が認められること前認定のとおりであるから免責の抗弁の他の要件を判断するまでもなく被告は自賠法三条の責任を免れないことになる。

四、原告の損害

(一)  療養費 一五万一、五四〇円

〔証拠略〕によると、治療費、看護代については原告主張の事実を認めることができる。又交通費については通院回数から考えて少なくとも原告主張の程度のものは要したであろうことは十分推測されるところである。

(二)  休業による損害 五三万七、三〇〇円

〔証拠略〕によると、原告は夫と息子の三人で三人のパートタイムの婦人を使用して衛生白衣の製造・販売業を営み、三〇〇軒以上の取引先を有し、原告は外交と室内作業を半分半分程度受持つて稼働している事実が認められるが、右事実によれば原告が右営業より定つた俸給を受領していたとは考えられないと言えども、原告が右営業より受けていた利益は一カ月につき全国女子労働者の平均賃金である一万九、九〇〇円(日本統計年鑑昭和四二年度版三九九頁)を下ることのないことは十分推認できるところ、原告の前記傷害の内容・程度、その後の経過等から考えて、事故後昭和四三年一二月までの二七カ月間は稼働できなかつたものと認められるから、右の期間の休業による損害を求めると前記金額となる。

(三)  過失相殺

右(一)、(二)の損害合計六八万八、八四〇円のうち、原告の前記過失を斟酌すると被告に対し賠償を求めうるものは二〇万六、六五二円というべきである。

(四)  慰藉料 一五万円

本件事故の態様、荒谷、原告の過失の程度、原告の傷害の内容・程度、入通院の期間その他諸般の事情を考慮すると右金額が相当である。

したがつて原告の被告に対して求め得る損害は合計三五万六、六五二円となる。

五、結び

よつて原告の被告に対する請求は三五万六、六五二円及びこれに対する本件損害賠償請求権発生の後である昭和四三年一一月一日以降支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判官 西川力一 高橋一之 岩淵正紀)

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